スイスでの国際的な展示会というと、まさに今開催している世界最大の時計展示会であるバーゼルワールドを思い浮かべる方もいると思うが、実は世界中のスーパーカーが集まるともされるジュネーブショーも注目に値する。
大きな自動車メーカーが存在しない欧州の中心に位置するスイスのジュネーブで開催されるそのショーは、どの国際自動車ショーよりも多くのメーカーが参加するだけでなく、
主力スーパーカーメーカーの全てが集うのも特徴。
背景には、どのメーカー色にも一切染まっていない無色透明な自動車ショーとしての雰囲気も関係するが、交通の便が良く欧州をはじめ世界各所からVIP客を招待しやすいことも関係している。
メーカーからすれば、最新モデルを世にアピールできる展示会というだけでなく、その場で数千万円から数億円の実車を前にVIP客に商談ができ、またすでに買われた方には実車を見ながら細かな仕様を決めるなどの場としても使える。
だからだろう、今年のジュネーブショーも、フェラーリは主力車種の488GTBの後継モデルであるF8トリブートを発表しているし、ランボルギーニは先日取り上げたウラカンEVOスパイダーを出すなど、動きはとても活発。
そんななか、プレミアム性を漂わせていたのがマクラーレン。
マクラーレン・スペシャル・オペレーションズ、略してMSOと言う、クルマをとことん自分好みに仕上げられるビスポークシステムを、720Sと600LTで開始したことも話題だが、大注目はアルティメットシリーズでの第3のモデルとなるスピードテールの発表だ。
先に言っておくが、価格は日本円で約2億5千万円。
106台の限定生産モデルであり、発表時点で完売。
1991年に登場したマクラーレンF1のオーナーや、アルティメットシリーズのP1、そしてSENAのオーナーに事前に声が掛けられ、すでに100人のキャンセル待ちまで発生する状況だという。
最高出力1050psを発揮する。
そのモデル名に示されたとおり、その速さは圧倒的で時速0−300km加速ではP1の16.5秒を大幅に上回る12.8秒を達成するうえに、最高速はマクラーレン歴代最高速度モデルのマクラーレンF1の時速391kmを超える時速403kmを誇る。
それを実現するべく、骨格には独自のカーボン・ファイバー製「マクラーレン モノゲージ」構造を使い、そこにアルミニウム製のアクティブ・サスペンションや、カーボン・セラミック製のブレーキなどを組み合わせて徹底的な軽量化を施したうえで、全長5137mmのボディ全体をしずく(ティアドロップ)型にして、空気を乱すフロントホイルには特別な空力加工処理を施している。
ちなみに最高速403kmは、ヴェロシティ・モード(最高速モード)という運転席上部のルーフにあるエンジンスタートボタン脇のヴェロシティモードボタンで始動。動力源のハイブリッドパワーが最適化され、車高が35mm下がり、デジタルサイドミラーを格納して空気抵抗を極限までそぎ落とす。
その状態での安定性を確保するべく、ボディの一部カーボンが段差なくせり上がり、リアウィングを成す構造にもマクラーレンのカーボン技術力の高さを見ることができた。
もちろん性能だけでなく究極のMSOであるビスポークの作りをスピードテールで実現するべく、ボディ色、部分的な塗り分け、皮素材や皮の色、加工の仕方、ステッチの入れ方などは当然として、炭素繊維の織物であるカーボンに金繊維を織り込むとか、驚きはリシャール・ミルとコラボレーションして、厚さ30ミクロンの極薄カーボン層を成す技術を使い、水流のような綺麗なカーボン模様を成すなど、どの様な要望にも応えられる環境が造られている。
いまマクラーレンは、2025年に向けて派生モデルを含めて18モデルを出す「トラック25」戦略を掲げており、このスピードテールはその第1号。
ちなみにその戦略、具体的はアルティメットシリーズに例えると、ベースにP1があり、サーキット性能を研ぎ澄ませたSENAがあり、そして長距離移動を最速&快適に行えるハイパーGTとしてセンターシートレイアウトで前後にトランクスペースがあり、誰よりも速いスピードテールがあるというように、現570Sが属するスポーツシリーズ、720Sが属するスーパーシリーズにも同様の3つのキャラクターモデル構成を施したうえに、今年末にはスポーツにも、スーパーにも、アルティメットシリーズにも属さない特別なGTモデルが登場することも示唆していた。
何にせよ「DNAを守るためにも、SUVは造らない。年間6000台以上は造らない。」とマクラーレンは明言しており、今後もストイックで走りにピュアなモデルを出し続け、我々をワクワクさせてくれそうだ。
マクラーレン
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マクラーレン東京